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─ November 2020

箕浦 龍一(みのうら りゅういち)
総務省大臣官房 サイバーセキュリティ・情報化審議官

総理府採用/沖縄開発庁に配属(沖縄の振興開発事業、復帰20周年式典等)/福井警察本部へ出向(参事官兼生活安全企画課長)/総務庁人事局(公務員制度改革)/総務省行政管理局(国の行政機関の機構・定員査定、独立行政法人制度など)/総務大臣秘書官(鳩山邦夫大臣、佐藤勉大臣)/総務省行政管理局企画調整課長(局総括課長として、オフィス改革、働き方改革、人材育成等を推進)/2020年7月 総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官

新型コロナは、まだ予断を許さない状況でインフルエンザとの同時流行リスクについても心配ですが、日本の大方の人は、ある程度向き合い方ができてきたのかなと思います。辛い思いや、様々な制約が多い中でやっているのは事実ですが、希望も見えてきています。これからワクチンが出て感染がおさまってくると、喉元過ぎてしまうかもしれませんが、もっと感染リスクが高い、かつ、致死率も高い感染症は、今後も発生する可能性があります。その時にどうするかは、役所もそうですし、多くの企業も考えておく必要があるのかなと思います。

今回は、緊急事態宣言にご協力いただいて、テレワークもやっていただいたんですが解除後は通勤の混雑も戻ってきていて、今日の朝も6〜7割ほど混雑した電車に乗ってきました(苦笑)。イギリスでは確か、日本のGW直後にロックダウンが解除されましたが、今でもロンドンのメトロの乗客は通常時の1〜2割と聞いています。それだけ文化や社会の常識がイギリスと日本では差がついています。イギリスの場合は、ロンドン五輪があった時に首都圏の混雑緩和ということで相当テレワークにシフトしたらしいです。それに比べて日本はまだ全然進んでいないんです。東京オリンピック・パラリンピックの開催を考えると、コロナが無かったとしても、この状況では難しかったかもしれないと思ってしまいます。

もう一つあるのは、コロナが発生する直前のテレワーク導入率は、全国で2割程度という水準でした。テレワークをするためには、それなりにシステム環境、ネットワークとかデバイスも対応できて、セキュリティもきちんと整えて準備しておく必要がありますが、それができていた企業が2割しかなかったわけです。いきなりコロナが発生して、緊急事態宣言になって外出自粛になり、形はテレワークっぽく見えるけど、学生さんが先生休みで「自習だよ」と言われているのと似た状況に置かれていた企業さんも結構いるのでは?という気もしています。それで今は、幾分感染拡大が収まってきたということで、会社通勤に戻っている状況だと思います。先ほどもいったように、もっと怖い感染症が起きた時に、もう一度同じことを繰り返すのでしょうか?満員電車で、あれだけ人が接触している中で、よく感染が広がらなかったと思います。今回は大丈夫でしたが、もっと感染力の高い感染症だった場合は極めてリスクが高いですよね。今まで情報のセキュリティにだけ気を取られていた企業さんが、自分たちの社員という貴重な人的リソースのセキュリティを、今後どうやって守っていくのか、という問題だったりあるいは、ワーカー側からしてもそこまでリスク取って、その会社で働きますか?という問題があります。今回は、それほど大きくなりませんでしたが、もっと怖いリスクがある感染症の時は、それが出てくるのではないか、という気がします。

同時に、私達が気がつかなかった多くの課題が、コロナによって見えてきたのも事実なので、「働く」という局面だけじゃなく、事業活動の面や、生活のありとあらゆる面で、ICTの存在を前提に、やり方は違っていてもよかったのかなと思います。もしかしたら、本当はすでに良いやり方があったのかもしれないし、多くの業界でも気がついているはずなので、そこをまさに、少しずつ変えていく中で、より良い快適な社会を実現していく、という方向に向かっていかないといけないのかなと思います。

テレワーク推進は、総務省の担当分野でもありますが、私個人のライフワークとしても、その普及推進に取り組んでいるので、この前も民間企業の皆さんに講演してきました。テレワークとか、デジタルトランスフォーメーションとか、デジタル庁構想など、今、にわかに話題になっているように思われがちですが、ICT革命は平成の中盤に起こっているんです。本来であれば、デジタルトランスフォーメーションは、そこと同時に起こっていなければいけない話を、ようやく今、やろうとしているので、すごく雑にいうと、20年遅れのことをやろうといっている話なんです。やらなくてはいけないのは事実ですが、そんなに新しい話ではなくて、我々の社会が遅れてきたものを取り戻していくという、コロナ前から元々言われていた課題でコロナでようやく、ご家庭のおじいちゃんおばあちゃんも聞いたことあるくらいの言葉として、国民的に認知されるようになったんです。この間、ある記者さんが、記事でデジタルトランスフォーメーションと書いたのだけど、どういう意味なんでしょうか?なんてこっそり質問にこられた方もいるので、そのくらい知られていなかったし、関心も持たれていなかったんです。本当は、とうにやっていて当然だったのに、できていないから、やらなければいけないのは当たり前です。

テレワークなどは、まさにそうです。今回のコロナで誤解されがちなのが、コロナ・テレワークで、「働き方改革」が進んだ、と思われがちですが、今回のコロナ・テレワークは、いわば「強制在宅勤務」なのです。自宅は必ずしも仕事に適した環境とは限りません。通信環境も整っていないからストレスも多かったと思います。本来のテレワークってそうじゃないはずです。パラレルキャリアの関係で言うと、自分が様々な仕事と関わっていく時に、仕事先の都合で、いろんなところに自分から出向いていくのではなくて、自分がいる場所でいろんな仕事と関わっていけるというのが本来のテレワークの形です。それは別に自宅じゃなくてもいいし、例えば、もしメインとサブという関係性があるのであれば、メインの仕事もしている傍、サブにも関わる、メインの職場でサブの仕事ができるとか、あるいは、メインの仕事でどこか行った先で、その日1日のメインの仕事とサブの仕事が両方できちゃいますよ、という、いわゆるABW(Activity Based Working)的な要素が実現できるのがテレワークの本来の価値だし、魅力です。今回のコロナ・テレワークを経験したことで多くの日本人や企業に、このことがどこまで浸透したのか、というのがやや疑問なので、その辺はもう少し理解を深めていく必要があるのかな、という気がします。

特に地方では、今回のコロナで、初めてテレワークをしたという地域が、かなり多かったと思います。大都市圏では、テレワークを「通勤しなくてよい」というメリットで考えがちですが、すし詰めの電車で通勤するのは大都市圏だけです。地方は元々、通勤の形が都会と違うんですよ。駐車場もふんだんにあるから、自宅から車で通勤する方もいらっしゃいます。あるいは、職住近接で徒歩通勤とか、自転車通勤のような方の場合、働く環境が整っていない自宅で、一日中椅子に座って腰を痛めるよりは、オフィスの方が楽だったりします。そういう地方の方々や、いろんな拠点都市まで出かけていく機会が多い方にとってのテレワークとは、外出先や移動の時間を利用して仕事ができることです。出張を考えても、従来、移動中の電車や新幹線の中では、雑誌を読むくらいしかできなかったのが、今は仕事ができるようになった。こういうような環境を整えることで、テレワークは一番インパクトが出てきます。その辺りのメリットをもう少し地方の経営者の方は考えて取り組んでいただくことが必要だなと思います。

(次回につづく)

パラレルキャリア専門エール通信