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─ April 2020

パラキャリウーマンの南愛さんが在籍する奈良県生駒市役所の稲葉淳一さんに、公務員では珍しいパラレルキャリアの実践や複業の応援などについてお話を伺いました。

人材育成を目的として複業を解禁

生駒市職員に求められる能力の一つとして「地域愛」があり、地域と関わり合いながら、地域住民と一緒に新たな価値を生み出せる職員を育成しよう、という人材育成の方針があります。地域活動を行う中で、報酬をもらえる場合があります。一般的に、公務員は報酬をもらってはいけないというイメージがありますね。報酬をもらえないことが地域活動への参加の妨げになってはいけません。そこで、職員の地域活動も本業にフィードバックされてスキルアップに繋がるならと考え、人材育成の観点から複業解禁に至りました。

現在の小紫市長は、前例にないことを積極的に取り組む方です。今後、複業を行うことが当たり前の時代を見据え、強いリーダーシップで今回の複業解禁を後押ししてくださいました。

法令に準じながら積極的に許可

我々は地方公務員法という法律に基づいて仕事をしており、その中で「営利企業や他の団体に従事する場合は許可が必要」と定められています。ですから、元々、複業できないわけではありません。法令に準じながら、地域貢献活動というところにスポットあてて、積極的に許可したというのが、今回の複業解禁と言われる制度の実態なんです。以前から一定規模の農業や不動産経営は許可していました。既にある法令を読み込み、解釈して、不可能と思われることを乗り越えるのも、公務員の仕事の面白さの一つです。

信用失墜を防ぐため案件ごとに判断

複業解禁しても、法令に抵触することがあってはなりません。懲戒処分等の対象になりうる行為に関しては、十分注意するようにしています。市役所が信頼を得られているのは、法令を遵守することが当たり前だからだと考えています。

職務に専念する義務や信用失墜行為の禁止といった、公務員として遵守しなければならないことに違反すると、市役所としての名誉も傷つけます。ですから、複業を申請している職員には、その都度確認を行います。もちろんケースバイケースなので、案件ごとに人事課などが判断しています。

複業は個人でリスクヘッジを考えて

複業は、毎年度更新制としています。複業を行うことで何か問題がある場合は、更新時に所属長が意見をしています。その中で、機密情報流出のリスクや、守秘義務、個人の不利益になるようなことは行わない、などの注意もしています。また、複業でケガをしても、公務災害と認定ができません。そういった部分も含めて、個人でリスクヘッジが重要になると考えます。

地域住民の理解を得て複業に取り組む

複業解禁にあたっては、地域住民からは悪い意見はなく、むしろ賛成してくれる方が多いです。しかし、複業と本業の間で精神的にきつくなってしまったという職員もいました。週5日、本業で業務を行いながら複業を行うのは、体力的にも精神的にも、余裕がなくなることがあると思います。限られた時間の中で副業をするので、睡眠や休養の時間もコントロールして気を付けてほしいですね。

実は複業を行っている職員のうち、半分は消防の職員にあたります。丸1日勤務し、丸1日休暇という勤務形態のため複業に取り組みやすいのではないでしょうか。元々運動が得意な職員が多いため、サッカーやバレーの指導を行ったり、消防のスキルを活かして救命講習を大学で行ったりしています。直接個人に依頼があった場合、普通なら市の仕事として受ける内容でも、所属が認めれば複業として個人が受ける例もあります。

勤務形態の変化により幅広く活動できる可能性

勤務形態がフレキシブルになれば、複業の時間や選択の幅が広がる可能性もあると考えています。ですが、それには職場の理解と、組織が円滑に回ることが大前提です。家庭と仕事の両立が厳しいと考える人も実際にはいるので、今後はそういった仕組み作りが重要です。これまで、八百名の職員の中で、17名が複業を行っています。まだまだこれからですが、複業に取り組みやすい職場環境をつくっていきたいですね。

モチベーションアップとシティプロモーション効果

複業解禁は個人のやりがいに繋がっています。金銭が発生することによって、周囲からの理解も得やすくなり、地域活動がより行いやすくなった職員もいます。例えば、完全にボランティアではなく、少しでも金銭が発生すると、本人のモチベーションアップに繋がり、責任感も増します。複業から得られるスキルは、本業にも活かせる機会が増えていくのではないでしょうか。

複業解禁して意外に大きいと感じたのは、シティプロモーション効果ですね。取材依頼も多く、他自治体等からの視察も増えました。市役所だけではなく職員も、個人としてメディアに取り上げられることが多くなりました。

複業解禁に踏み出せない自治体にエールを!

複業解禁を導入すること自体は、さほど難しくないと考えます。しかし、実際に浸透するまでに、時間はかかります。複業を希望する職員に対しては、その都度相談に乗り、一緒に考えていく姿勢が大切だと思います。もっと複業が広がり、いろいろな人がチャレンジできる機会が増えるとよいですね。

稲葉 淳一(いなば じゅんいち)
奈良県生駒市役所 市長公室人事課 人材育成係

(取材・写真 今西由季・下河内優子/記事 菊池詩織/編集 川越多江)

パラレルキャリア専門エール通信