ヘルスケア部門 食育ライターの黒やなぎ桂子です。
私が担当するコラムは今回が最後なので、日本で一番小さな男子刑務所でのできごとから感じたことをお伝えします。
刑務所の食事は、炊事工場の受刑者たちがつくっています。そのため、調理スタッフがいる一般の給食施設ではあり得ない珍事件が発生します。
「コロッケが爆発しました!」
→ 一度にたくさん揚げようとしたでしょ
「スパゲッティがくっついてしまいました!」
→ 熱湯に入れたらすぐに混ぜなきゃ
「ミョウガはどこまでむきますか?」
→ 誰がむけって言った?むくな!
「チンゲン菜と小松菜を間違えました。」
→ もぉ…どっちでもいいわ…。(諦め)
と…、こんな調子…。
ですから、新メニューは必ず調理指導に入ります。
シュウマイを作った時のことです。通常、ひき肉料理は加工済みの冷凍食品を使いますが、手作りに挑戦しました。
「すげぇ、うまかったッス!」
と彼らは皆満足そうでした。そのうち1人が
「オレが肉こねたし!」
と言うと、
「玉ねぎ切ったのオレだし!」
「丸めて並べたのオレだし!」
いかにシュウマイに貢献したかのアピール合戦になり、ここは小学校の教室か…と思いました(笑)。もともと、
食に対して無頓着で料理経験もない彼らがおいしいものをつくるために一致団結する。そして、一生懸命つくったものが評価される。ますます、がんばろうとモチベーションが上がる。そんな彼らを見ていて、たのもしいとか微笑ましいとか思ってしまうのはおかしいでしょうか。
刑務所勤務も10年目を迎えます。受刑者は荒くれ者ばかりで、刑務所は怖いところだと思っていました。しかし、彼らとは普通に話しますし、世間話をしたり、冗談を言って笑ったりすることもあります。
公務員という立場、刑務所という特殊な施設、守秘義務、受刑者イメージ、そして犯罪被害者側の感情、それらを考えると刑務所でのおもしろおかしい出来事を発信するなんて不謹慎だと思われない? バッシングされたらどうしよう? いろんな思いが錯綜し、このことをずっと書けませんでした。しかし、これを書けるのは私だけなのです。私の仕事に彼らの罪は関係ありません。限られた条件でより良い給食を目指すのは、どこの施設の栄養士でも同じです。
ここで覚えた料理を家族につくってあげなさいよ!
料理をつくってもらったら、おいしかったと言ってあげなさいよ!
そして、二度と私と会わないようにね!
そう言って彼らを送り出しています。ここでの経験が、彼らの社会復帰や再犯防止に繋がることを願って、塀の中でできる食育を精一杯やります。さて、今日は新メニューがあります。
おいしくできるといいなぁ…。
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