テレワークとパラレルキャリアの可能性[FILE03]

霞ケ関でオフィス改革、働き方改革、人材育成を進めるテレワークの第一人者で、現総務省行政評価局総務課長(局総括課長)の箕浦さんに、日本の働き方を変えるテレワークについてお話を伺ってきました。今回は、テレワークの普及率と課題についてお伝えします。


 テレワーク普及率はまだ低く、大手、中小含めて導入していない企業さんが多いです。今、テレワークに対して積極的な企業は、どちらかというとIT系だったりと、業種業態的にも偏りがあります。

 ちょっと悩ましいのが、特に中小企業になります。実際にテレワークを導入するには、ITインフラがテレワークに対応できるようになっていないといけなくて、それに見合うセキュリティーも含めて相当な規模のIT投資が必要になってきます。そこでちょっとためらう企業がけっこう多いです。

 一方で、今、全体で進めようとしているテレワーク自体の発想が古い気がしています。もともとテレワークが始まった頃というのは通常、職場でしている仕事を、職場だけじゃなくて家でやってもいいよ、という発想からでした。

 携帯電話を持っていると、電車やタクシーで移動中だったり、外出している時に、仕事関連の電話をしたり、受けたりすることがあるじゃないですか。それ、仕事ですよね。職場から離れていますよね。テレワークですよね。自分の本来の拠点から離れて仕事する、という意味においては、これもテレワークのひとつになります。

 実は意識していないだけで、昭和の時代から皆さんはテレワークを普通にやっているんです。公衆電話だったかもしれませんが(笑)。
 よくよく考えてみると、昭和の時代は、確かに職場という拠点に出勤することで、仕事に必要なありとあらゆるツールが手に入りました。昔は携帯電話はありませんから、職場にいけば、電話もファックスもあって、仕事に必要な資料は全て紙の形で保管されているわけです。

 でも考えてみてください。今やスマホ一台で、それらをすべて持ち歩けますよね。特に平成後半のICT革命の恩恵というのは、自分がそこに行かなくちゃいけないという意味での「拠点」が必要なくなり始めています。今は、個人が拠点になれる時代になりました。

 現在、日本で進めているテレワークは、「個人が拠点」という発想にまだなっていません。どちらかというと、まだ昭和のパラダイム、昭和のやり方に留まってしまっているんです。ようやくテレワークを採り入れて、「自宅で勤務してもいいよ」という企業が出てきています。というのが、今のテレワークを取り巻く現状なんです。やっと平成に追いついてきました。でも、もう令和の時代です。いつでも、どこでも働けるんです。

 パラレルキャリアを目指す上でも、自分のいろんなやりたいことをやっていく時に、拠点に自分がいないといけない、というと、場所的にも時間的にも活動が制約されますよね。しかし、テレワークで自宅やシェアオフィス、コワーキングスペースなど、何なら移動中にも、その時に自分が思う一番ふさわしい場所で仕事をしていいよ、という勤務環境がどんどん整っていけば、今の日本人の人材は、もっともっと輝けると思います。さらに地方も活性化します。

 地方の問題も、テレワークが大きなヒントを与えてくれています。人口が大都市にどんどん流れ込んでいく状態は、多分、今後も変わらないだろうと思いますが、人口が減ってしまうことは、トレンドとして仕方がありません。そこをなんとかしたいなら、今までの発想で考えていてはいけません。

 これから日本全体の人口が減っていきますが、個人が拠点として激しく動き回る時代においては、移住とか定住しなくてもいいけど、その動き回っている人たちが来てくれてばいいじゃないか、という環境が必要だし、それをどうやって実現していくか、というとその鍵の一つがテレワークだと思うんです。

 いまだに、地方活性化をしようとした時に、大都市から企業を誘致しようと発想するところが多いですが、企業はもう来ないですよ。東京に拠点がある企業は、もはやインターネットでビジネスができる時代だから全国で分散管理する意味がなくなってきているわけです。昭和のようにわざわざ地方に支社を置く、とはなりません。

 では、企業は大都市に集中したままか、というと、実はそんなことはなくて、地元とネットワーキングできるチャネルがあれば、それは大企業にとってもメリットが出てきます。そうすると、もっと別の形で企業を誘致すれば、何らかの形で企業の拠点もできるんです。

 ただそれは、昔の支社のように何十人の規模ではなく、駐在員二、三人かもしれません。それでも、そこに企業活動の拠点ができるので全然違います。このように発想を変えていかなければいけませんし、また、その拠点で行われる仕事はテレワークなんです。

 今流行りのシェアオフィスというスタイルは、これから地方でもかなりニーズが出てくると思います。月額の会費は払いますが、その分、初期投資、ランニングコストはいらなくなって、そのオフィスに入居している他の企業とのネットワークとか、場合によっては、そこのコミュニティで地元とのネットワークも実現できるわけです。時代はそれだけ変わっています。テレワークは「在宅で働くこと」とだけ考えているとものすごくつまらないですが、実は、これからの日本のビジネススタイルを変える大きな可能性を秘めています。

(次回に続く)