株式会社 リクルートマネジメントソリューションズ

渋谷真澄さんが在籍する、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ人事グループの山科このみさんに、なぜ、社員のパラレルキャリアを応援するのか詳しくお話をお聞きしてきました。


 副業解禁についてですが、実は母体となっているリクルートマネジメントソリューションズの前身であるHRR株式会社で、副業というものがすでに認められていました。ただ今の流れのような大々的な副業解禁というよりは「すでに活動している副業に対して、この範囲でやってね」というガイドラインを定めたような感じです。

 例えば、他の企業で雇用されるというような形の副業は禁止していて、フリーの活動や家族経営の役員就任などが承認の対象となっています。

 副業を含めた社外活動を推進するようになったのは、2016年に「多様な人材が生きるマネジメントの構築と推進」というプロジェクトを社内で発足したときです。これは、いわゆるパラレルキャリアのように個人が、仕事以外にも色々なワークとライフを持つことで豊かになり、お客様に提供できる価値も上げていこうよ、というものです。

 ただ、会社としてはワーク以外の分野も充実させようと提案はしていますが、どの分野で何をするかとか、どのぐらいのシェアにしていくか、ということは社員に任せるという方針なので積極的に「副業していきましょう」ということではないですし、強制もしていません。

 副業を解禁していても、積極的に副業を促進していないのは、まだ人事制度上は週に5日間で勤務するということがベースで組み立てられているので、「週3日は自宅、週2日は出勤」というような柔軟な制度にはなっていないからです。

 ただ、本業に支障のない範囲で新しい仕事をしてみたいという考えは応援していますし、プロフェッショナルとして目の前の仕事だけでなく「自分を豊かにすることで、個が成長し企業にも還元される」ということを目指しています。

 副業解禁する時の具体的な取り組みや仕組みづくりは、「多様な人材が生きていくような会社でありたい」という思いをスタートに、1年間かけて介護・育児・若手・シニア、といった色々なカテゴリーのメンバーを集めて、プロジェクトを組みました。

 当社には、「個と組織を生かす」というスローガンに共感して入社している人材が多いので、多様な人を生かすということ自体はみんな肯定的ですが、それが具体的にどういうことなのか、について時間を捻出するためには労働時間を削減しなきゃいけないね、とか、介護とか育児とか様々な事情がある中で働きやすくしていくためにはどうしたらいいか、など、改めて1つ1つ話し合い組み立てていきました。

 副業を解禁したことで、まず、社員の労働時間の適正な申請を把握をするというところからスタートしました。労働時間全体は若干短縮しているものの、数字を見るとそんなに大幅に減っている・・という感じではないです。

 1日数分短くなったね、という程度ですが、社内の風景を見ると、以前は22時以降までたくさんいた人たちが、今だと20時以降には、まばらになっているね、というような感覚や、有休を取ってメリハリをつけていこうという動きに変わってきました。

 あとは従業員満足度調査というものを年に1回実施していますが、長く働く見通しを持てるようになったという社員が増えました。

社会体験の充実に向けた「花びらモデル」

新刊「組織を動かす働き方改革─今すぐスタートできる!効果的な目的・施策・導入プロセス」
(中央経済社、立花則子・本合暁詩・(株)リクルートマネジメントソリューションズ経営企画部[編著])


花びらモデルとは
自分を中心にして、現在の仕事とそれ以外の活動領域を花びらのように表現したものです。「花びらセッション」では「花びらモデル」にある視点をもとに、労働時間を短くして取り組みたいことや大切にしたいことなどを自由に記述し、各自で共有しました。個々人に取って、充実させたい社会体験は異なります。そこで、花びらの数や名前、大きさなども自由に変えて活用しました。
ありたい自分を言葉にすることで、その実現にむけ、働き方改革に主体的に取り組むことを促します。

<花びらモデル記入例>

 また、当社の「花びらモデル」自体が良かったのは、会社の都合で労働時間を削減するというのではなく、自分の人生のために、他にやりたかった事はなかったのか?ということを問いながら、空いた時間を自己成長のために何に使おうか、とやらされ感でなく前向きに取り組めたことです。

 副業を解禁していることで、特に苦労したことはありません。ただ、もともとの仕事量が多いから副業なんて難しい、となかなか絵に描いた餅というか、実現できない部分もあるので、絵空事のように思えるという意見は今でも一部社員からはあります。その点は少しでも改善できるように、今後も取り組むべきことだと思っています。

 副業解禁で気をつけていることは、兼業したものも含めて、会社の中での労働時間の管理になる、というのは伝えています。本業の生産性が落ちるのではないかとか、情報の流出があるのではないか、といったことは、例えば、テレワークを解禁するときにも出るような話題でした。ただそれは、テレワークや兼業のせいではないと考えています。

 情報漏洩は、普通に本業だけの勤務をしていたとしても、退職のタイミングで持ち出してしまうなどのことが考えられますし、兼業だからということではないと思います。ガイドラインにも「情報漏洩の禁止・競合企業への知見の流出は禁止」は記載しています。

 今、副業解禁を考えている企業や、なかなか副業解禁に踏み出せない企業もあると思います。副業解禁に限らず、何か会社として推したいという時には、その会社にとって何が必要なのかということの接続が必要なんだと思います。

 当社は、事業として個と組織を生かすということを「人と組織のソリューション」という形に変えてお客様に提供しているので、自らが体現するということは社員としても大切だという話をしています。なぜそれを導入するのか、が明確だといいと思います。

 会社によって置かれた状況は様々ですが、導入目的を明確にすると判断の拠り所となり、ブレがなくなります。その上で、起きてはいけないリスクを押さえる最低限のルールを決め、柔軟な運用をする方が良いのかなと思っています。

株式会社リクルート
マネジメントソリューションズ
経営企画部人事グループ シニアスタッフ
山科このみ